デスビキャップとローターの点火位相




ここでは、これまで日本ではあまり語られてこなかった、「点火時に於けるデスビキャップとローターの位相関係」について解説します。

通常点火における時間軸上の事項に関してはすべて「点火時期」という言葉で片づけられてしまいがちですが、この点火時期というのは、クランクシャフトの回転に対して点火系がどのくらいの進角/遅角で点火するか、ということを表わすものです。今回のテーマである点火位相というのは、点火の際にデスビの内部でローターの先端とキャップの電極がきちんと向きあっているか否かということを言うものです。




上の図は、正常なデスビ内部の点火のメカニズムを描いたものです。デスビシャフト上にあるポイントカムにマグネットスリーブを被せますと、カム山の位置に、6気筒車であれば6個のマグネットが、4気筒車であれば4個のマグネットが配置されることになります。

この磁石から出る磁力線がIGNITORモジュールの検知ポイントに検地されますとIGNITORはコイルの一次側の電流を遮断し、プラグに点火します。つまり、この磁力線が検知さる点火の瞬間に、ローターはキャップの電極と向き合っていなければいけません。従いまして理想的な状態は以下の図のようになります。




  • ここではほとんどの日産や三菱の旧車で採用されているローターが反時計廻りに廻るデスビを例に挙げています。
  • この項ではポイントレスキットIGNITORで説明していますがポイントの場合でもまったく同じで、カム山がポイントを押し広げた瞬間が点火の時ですから、その時にローターとキャップの電極が向き合っていなければいけません。
  • IGNITORは各デスビにおいて、ポイントが開く位置とまったく同じ位置で点火するようにマグネットスリーブとセンサーの位置が設計されています。
上図のような状態は、キャップ電極とポイントレスパーツ(又はポイント)が理想的な位相関係にあると言え、ローターの先端からキャップ電極へばっちりスパーク電流が流れることになります。




ところが、中にはこの点火位相がよくないケースがあります。


上図は点火位相が遅れている状態で、バキューム進角装置がついているデスビに時々見られる症状です。ローターが反時計回りに回転していき、先端がキャップ電極の前を通り過ぎる辺りでようやくマグネットの磁力が検知されるような位置関係になっています。キャップ電極とローターの先端の電極が遠いのでこの間隙をスパークする電圧もここでエネルギーをロスすることになり、プラグの点火も本来よりも弱くなってしまいます。

こういう状態にあるデスビの場合、アイドリングはするものの、少し回転を上げていくとある回転数で頭打ちになって回転が上がらないということが起こります。ローター先端とキャップ電極の向き合う面積が非常に狭く、かつローターは反時計方向に逃げていきますから、回転が上がれば上がるほどローターはキャップ電極から早く遠ざかるので、必要な電流が流れ切らないうちにローターがキャップ電極の前から去ってしまうからです。

この点火位相の遅れを、「点火時期の遅れ」と混同して考えてしまいますとトラブルは解決しません。点火時期を早くしてやればいいだけだ、と、デスビ自体を時計周りに捻ってみますと、IGNITOR(ポイントでも同じ)は確かに時計回り方向に動いてクランクシャフトに対する点火時期は早まりますが、同時にキャップ電極も時計回りに動いてしまいますので、位相の悪さはそのままです。これを修正する為には、バキューム進角装置が引っ張っているポイント台座の位置設定を直してやるしか方法がありません。(強引な方法としてはデスビキャップを反時計周り方向にずれるように加工してしまうという手もありますが....)



では、なぜこのような点火位相の遅れた状態になってしまうのでしょうか。




実は国産車でよく採用されているバキューム進角装置のついたデスビは、さすがにここまで悪い位相ではありませんが元々少し遅れ気味の位相で初期設定されており、アクセルペダルを踏んでスロットルバルブが開きインテークマニホールドの負圧が上がると(つまり吸引が強くなると)バキューム進角装置がポイント台座を時計廻り(ローターの回転とは逆の方向)に動かし、点火時期と点火位相を早め、ローターとキャップ電極を正面に向かい合わせるるという方式が取られています。

このバキューム進角装置は、インテークマニホールドの負圧によってキノコ形のダイアフラムがひっぱられ、引っ張られたアームがポイント台座を時計回り方向に動かすという仕組みです。


これを動画にすると、以下のようになります。


つまり、アイドリング時は位相を遅れ気味に設定し、アクセルを踏み込んで負圧が上がってはじめて、ローターとキャプ電極が向かい合って最良の点火位相になるように設計されているわけです。(よく勘違いされますが、このバキューム進角装置はアクセルの開度に応じてだんだん開いていくわけではなく、スロットルバルブが開けば負圧によりすぐにいっぱいまで進角します。)

ところが旧車のチューニングをする際に、このバキューム進角装置を殺してしまうということがよくあります。デスビはバキューム進角以外にも遠心力で働くガバナー進角装置がデスビシャフトに組み込まれていますが、このガバナー進角装置は回転上昇に伴う遠心力でポイントカムから上のシャフト上部が進角方向に首を振るというものですので、首を振ればカムが進角するのと同時にローターも進角方向に進みますから、IGNITOR(又はポイント)とキャップ電極の位相関係はまったく変りませんので、どの回転域においてもアイドリング時の遅れた位相のままになります。回転が高くなる程ローターとキャップの向かい合う面積は大きく必要となるのに対し、この条件の悪い位相状態のまま、しかも回転が上がれば上がるほどローターはキャップ電極から早く遠ざかろうとしますので、位相状態がかなり悪い場合には回転が上がらなくなってしまいます。

時々ユーザー様から、IGNITORを組み込んだのにある回転数から回転が上がらないがこれは不良品ではないかというクレームを戴く事がございます。まさにこの位相の悪さが疑われるところですが、通常この位相を調べるのは難しいのでなかかかお気づきになられないと思います。IGNITORは非常に単純なパーツでポイントが行うスイッチング作用を半導体で代行するに過ぎません。ある回転数から上は突然廻る事がないというような回転数に応じてなにかを変えるような高度な機能を持ち合わせているわけではありませんので(IGNITOR2は除く)、少なくともアイドリングする以上はまず間違いなく故障や不良品ではありません。デスビ周りや気化器周りに何かトラブルがあるはずなのですが、新しく導入したパーツというのは何かとトラブルの原因ではないかという疑惑にさらされ易い運命にあるのが辛いところございます。




生産から20年〜30年と経った旧車の場合、デスビもあちこちと不具合があって当然ですが、バキューム進角装置もダイヤフラムの膜が破れて動かなくなったり、ポイント台座の回転部分が固着して進角しなくなってしまったりします。当然ながらデスビのクリーニングやオーバーホールという作業が行われるわけですが、分解しクリーニングやグリスアップが施された後にバキューム進角装置を再度組み付けるわけですが、この時、デスビ本体とバキューム進角装置の間にワッシャーや薄めのガスケットが入っていたものをいれずに組み付けてしまったりする場合がかなり見受けられます。こうなりますと本来のバキューム装置の位置よりもアームが深く入ってしまうことになります。ワッシャーやガスケットの厚さなんていいところ1mmか2mmですが、わずか2mmの厚さがなくなるということは、アームが2mm深く入ってポイント台座を反時計廻り方向に押してしまうことになるわけですから、初期設定の遅れ気味の点火位相をさらに遅らせてしまうことになり、さらにバキューム進角を使用しませんと、このような悪い位相のままというトラブルが発生することとなります。

バキューム進角装置はきちんとオーバーホールした後にちゃんと使用するに越した事はありません。が、どうしてもバキューム進角を使用したくない・使用出来ないという場合には、前もってポイント台座の位置を進角方向に10度程動かした状態でセットして使用しませんと(例えばバキューム進角で10度・ガバナー進角で15度、合計25度の進角のものをバキューム進角を使用しなければガバナーで15度しか進角しないデスビになってしまうわけですから)、せっかくのIGNITORの点火能力も活かせないという残念な結果になります。

ポイント台座を10度進めた状態すと当然のことながらアイドリングはオリジナル状態より高くなってしまいますが、アイドリングが高いことを気にして進角を遅らせてしまうという本末転倒なお客さまをよくお見かけ致します。車というのは走行する為にあるわけで、肝心な走行時の進角量を減らしてしまってはエンジン本来の性能が発揮出来なくなり、パワーも落ちれば燃費も悪くなり、全くもって本末転倒と言えます。デスビの本来の機能を一つ減らしているわけですから、少々アイドリングが高くなる程度のことを気にするべきではありません。点火タイミングの合わせ方もアイドリング状態であわせても全く意味がなく、実用回転域で(例えば3,000回転で25度とか、6,000回転で30度とか車種により様々)合わせるのが正しい合わせ方と言えます。








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