IGNITORとIGNITOR2の違いについて


IGNITORは、いわば電子式ポイントです。ポイントというのは物理的な金属同士の接触によって開閉する、いわばスイッチです。スイッチが閉じている間は電流が流れます。この電流がイグニッションコイルの一次側に流れ、流れている間に磁気エネルギーとしてチャージされます。スイッチが開きますとこの電流の流れが止まり、止まった瞬間に蓄えられたエネルギーによってコイルの二次側から万ボルトクラスの電圧が出力されます。旧車のほとんどはこの方式で点火しており、インダクティヴ点火、日本ではケタリング方式とも呼ばれる方式です。

IGNITORは、このスイッチング作業を電子的に行う電子スイッチと思っていだければほぼ間違いありません。従いまして、ポイントが電子化されてはいますが、コイルの一次側に流れる電流を磁気エネルギーとしてチャージ→電流停止・高電圧発生→放電という原理自体はポイントの時と同じです。

しかしながら、ポイントにはアーク電流というものが発生します。ポイントが開く瞬間をよく見ておりますとポイントの先端にパチパチと火花が出ます。これがアーク電流と言うもので、点火エネルギーの損失の一つの目安とも言えます。

よく勘違いされていることですが、イグニッションシステムにおけるスパークエネルギーを最も大きく左右するのはコイルのターン数比(昇圧比)などではなく、一次側電流の「遮断の早さ」です。ポイントが開いた時にスパッと電流が途切ることが出来れば、もっとも良い形で一次側の電圧を昇圧する(自己誘導起電力)ことが出来ます。がしかし実際はポイントが開いた瞬間には電流は一口には遮断されず「遮断されてなるものか」というコイルの意思のような力(自己誘導起電力に伴う逆起電力)によってポイントのギャップ間を電流が放電し、通電を維持しようとします。これがアーク電流です。コンデンサーはこの持続しようとするアーク電流を吸収して一次側電流の遮断を早くする働きをしています。コンデンサーを取り外した場合、アーク電流がダラッと流れ遮断が完了するまでの時間が長くなる為、昇圧されるスパークエネルギーは格段に低くなり、スパークプラグのギャップに飛ぶ火花も元気な青いものではなく弱い黄色になります。ポイントの焼けも激しくなります。

ポイントレス化しますと物理接点が無くなる為、このアーク電流をまったく発生させず、一次側電流の遮断速度を飛躍的に速くすることが出来る為、ポイント時と比べますとスパークエネルギーを格段に高くすることが出来ます。一般にポイントレス(フルトラ)化するとエンジンにパンチが出ると言われるのはこの部分の効果が主たる要因です。

しかしながら、インダクティヴ点火(ケタリング方式)である以上は、高回転になりますと比例して一次側のチャージ時間が短くなる(ポイントが閉じている時間が短くなる)為に、コイルにチャージするエネルギーが小さくなり出力する電圧も下がってしまいます。これを解消する為には、短いドエル時間でも早くチャージできるよう、コイル一次側の抵抗値を小さくして電流値を大きくしてやることで解決は出来ます。が、これをしてしまうとドエル時間の長い低回転時に大きな電流が長い時間流れすぎ、発熱〜焼き付きをおこすことになります。従いまして、インダクティヴ点火を行う場合のイグニッションコイルは、4気筒・6気筒の車両については全世界的に一次側の抵抗値を3Ω前後に設定し電流を4アンペア強ほどに押さえることとされてきました。(勿論これは旧車の時代の話で現代はこんな旧式な点火方式はとりませんのでコイルの抵抗値もまったく違います。)

因みにアメリカ製の車両に多い8気筒車の場合は1.5Ωが採用されていました。これは非常に単純な話で、4気筒の場合デスビが一回転するとポイントは4回開閉しますが8気筒の場合はこれが8回になり、つまりコイルの一次側に電流が流れるチャージ時間=ドエル時間は4気筒の場合の半分となります。従いまして抵抗値を半分にして電流を倍の8アンペアにし、チャージを早くさせているわけです。ドエルの時間が短いので8アンペアを流しても発熱には至りません。

電気を扱う上で最も注意する点は、この「電流が何アンペア流れるか」という部分です。電流が大きくなれば熱が発生しそれを越えれば発火しますから、電流を既定値以内に抑えるというのは何よりも大事なことで、これは車の電気だけに関わらず屋内配線の電気工事から電気機械の設計まで、あらゆる電気の考え方の基本中の基本です。この電流値は中学校の理科で習うオームの法則(E=I×R)から簡単に計算出来ます。12ボルトで4アンペアに抑えたい場合、その抵抗値を求めるには12÷4で答えは3Ωです。これは物理法則からくる森羅万象の絶体的法則ですから例外はありません。ポルシェ・メルセデスベンツ・BMW等の電装を担当する世界のBoschもこの抵抗値を採用していましたし、フィアット・アルファロメオはもちろん皆さんの憧れフェラーリまでもの電装を担うMagnetti Marelliも4気筒には3Ωでしたし、308GTBなんかのV8車も4気筒ずつ左右バンクに分けていますので方バンクは4気筒で3Ωです。ロータスやMG、ジャグワーなどを担当するイギリスのルーカスも4気筒には3Ωです。国産車では1.5Ωのコイルが多いですが1.5Ωの外部抵抗が繋げられていますので合計しますとやはり3Ωです。例外はないのです。

よく国産旧車のチューニングで抵抗値の低いコイルを使用したり外部抵抗を外す等の改造を行った結果、確かにトルクは出たがポイントやコイルの焼き付きが激しく困っているというお客様が多数いらっしゃいます。まさにこの辺りを無視してしまった結果です。電気部品の純正仕様のスペックというものはわざわざ性能を下げる為に決められているものではありません。必ず理由があってその数値に定められていますので、それを安易に変更しますと必ず不具合の元になります。因みに日本でも人気のあるMSDのブラスター2コイルは0.7Ω、付属の外部抵抗は0.8Ωなので併せても1.5Ωしかありません。4気筒車のケタリング方式で使用するには抵抗値が低すぎます。どんなコイルでも外部抵抗さえつければ問題ないと思われている方が非常に多いですが、これは大きな間違いです。1.5Ωは8気筒車用のスペック、つまりアメリカのメーカーであるMSD社が自国の車を対象にした商品であって、圧倒的に4気筒車が多い日本車のケタリング方式には向かないコイルなのです(勿論MSD6A, 6ALなどのCDIでお使いになる場合はまったく問題ありません、元々それ用のコイルなのですから)。MSDだけでなく大抵のアメリカの社外パーツメーカーの商品は8気筒車を対象に作っています。充分にご注意下さい。

ちょっと考えればわかることですが、コイルの抵抗値を下げただけでエンジンのパワーが上がるのであれば世界中の自動車メーカーが最初からそうしていると思いませんか?(笑)大変残念なことですが、誤った知識で安価なアメリカ製ハイパワーコイル(ブラスター2コイルなんて本国では20ドル前後で売られている安物コイルです)を4気筒車ユーザー様に高値で販売してしまうお店が多いようです。


ここで、IGNITOR2の登場です。

IGNITOR2は内部に簡単な演算チップを内蔵しており(コンピュータみたいなもんですね)、どの回転域でも常に短いシャープなドエル時間に制御します。ドエル時間がシャープということは、ほんの一瞬だけ12ボルトをかけるということです。つまり、抵抗値の低いFlamethrower2/45000Vコイル(内部抵抗0.6Ω)にほんの一瞬大きな電流を流し急速にチャージさせるという芸当が可能なのです。電流を流すのはほんの一瞬ですので発熱・焼き付きとは無縁です。急速にチャージ出来るので高回転でもまったく影響なく、あらゆる回転域でCDI点火に勝るとも劣らない高いスパーク電圧を持続します。高回転まで使用するハイパフォーマンス車には最適です。IGNITOR2の性能を最大限発揮させるには言うまでもなく専用に設計されたFlamethrower2/45000Vコイルが最適です。(最近PERTRONIX社より、新しいタイプの60,000 Volt HV コイルも発売されました。詳しくはPERTRONIX社のHPをご覧下さい。)




叉、ノーマルIGNITORにはただ一つだけ欠点があります。エンジンをかけない状態でイグニッションスイッチを入れたままにしておきますと、IGNITORはコイルの一次側に電流を流し続けてしまいます。この電流が長い間流れ続けますとIGNITOR内部の半導体が発熱し、やがてIGNITORは焼き付いて壊れてしまいます。暖機運転中に不意にエンストしたまま放置されたり、イグニッションスイッチを入れたままでの整備、更にはエンジンを止めたまま車内でカーオーディオを聞く等されますとIGNITORは発熱、焼損してしまいます。

IGNITOR2にはドエル時間をコントロールする機能がありますので、このトラブルとは無縁です。エンジンが廻っていない時はすなわちドエル時間が無限大となりますのでIGNITOR2は電流を流さず、発熱は起こりません。どんな場合にも安心してお使い頂けます。勿論、通常の使用方法を守ってお使い頂いている限りは、ノーマルIGNITORもまったく問題はございません。

以上の理由から、IGNITOR2の設定のある車輌の場合でしたら間違いなくIGNITOR2がオススメですが、高回転域を使用しない車輌の場合はIGNITORとIGNITOR2の差がでにくいのでノーマルIGNITORでも性能的には十分ですし、Ignitorの電源部にリレーを挟むことでエンジンをかけない場合でも焼きつきを防止する配線方法も存在します(一般ユーザー様にはお教え致しませんが)。

叉、最近ではMSD6シリーズが安く流通するようになり、こうしたCDIをお使いになるお客様が増えております。IGNITOR・IGNITOR2もこうしたCDIと組み合わせてお使い頂くことが可能です(但しポイントで使用出来るCDIに限ります)。

この場合IGNITOR・IGNITOR2はCDIに点火のタイミングを報せるだけの装置となりますので、もちろんポイントよりも正確に、どんな回転域でもまちがいなく正確にCDIに点火信号を送りますので、あらゆる回転域でCDIの性能をあますことなく発揮出来るようになりますが、点火の能力自体はCDIの性能そのものとなりますからIGNITORでもIGNITOR2でもまったく同じ点火性能となり、コスト的に考えましてもノーマルタイプのIGNITORをお使い頂くことをお勧め致します。イグニッションコイルはCDIメーカー推奨のものをお使い下さい。


当店のオススメをまとめますと:


    1. 高回転まで回さない車輌であればノーマルIGNITORで充分、4〜6気筒車は一次側3Ωのコイル(Flamethrower40000VコイルやBoschのブルーコイル等)が必需。
    2. 高回転まで回す車輌の場合はIGNITOR2+Flamethrower2/45000Vコイルがお勧め。(IGNITOR2はどの車輌用もあるわけではないのでご注意)
    3. MSD等のCDIを使用する場合はIGNITORでもIGNITOR2でも性能はまったく同じなのでリーズナブルなIGNITORがお勧め。コイルはCDIメーカー推奨のもので。

    ということになります。



    余談1.デスビに内蔵するセンサー部と外部に設置するアンプ部とにわかれた一般的な国 産のフルトラシステムも、点火の原理はこのインダクティヴ方式であることに代わりはありません。複雑で高価なシステムの割には根本的な原理はポイントともIGNITORとも変らないのです。

    余談2.さらに余談ですが、こうした高価なフルトラシステムのアンプ部ですが、アンプという言葉を使ってはいますが別段何を増幅しているわけではありません。アンプというのは例えばカラオケなどを想像すればわかりやすいのですが、マイクの微小な電気信号をスピーカーから出力できる何十ワットもの電力に増幅する機械 のことを言います。つまり元の信号をそのまま増幅する機械がアンプなのです。しかしフルトラアンプというのはデスビに内蔵されたセンサーの信号にしたがって単に12ボルトをコイルの一次側に出力するかしないかだけの機能で、言って見れば単なる12ボルト電源でしかなく、その電源のオンオフをセンサーの信号でスイッチングしているにすぎず、アンプというには大分無理のある名称です。アンプというと何となく大きな出力が出ているような誤解を招きますし、あまり適切ではないですね。しかもこれら一連の機能は、IGNITORたった一つ単体で済んでしまうことなのですが....

    余談3.ここまでお読み頂いて大変恐縮なのですが、2012年より当店ではIgnitor2の扱いを自粛しております。Ignitor2は内部にコンピュータを含む精密機械電子デバイスですので、使用されますお車の状態・環境・使用法によっては非常に壊れやすくなります。泥や水が大敵である為オフロード使用車に不向きなのは勿論、アース廻りも完璧である必用があります(アーシングをしていれば大丈夫というわけではありません)ので、一言で言いますと一般的な旧車にはあまりお勧めできないということになります。Ignitor2のご利用をお考えのお客さまは、まず一度ご相談下さいませ。



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